Between the waves  ~ 波のまにまに

いろいろな書き物を置いています

分類:書き物の大まかな分類 
概要:舞台となる年代、概要など 
年齢制限:読者の想定年齢 

はじまり

分類:小説
年齢制限:なし

 

 僕がその町についたのは、確か冬小麦が金色の穂を重たそうに隣の麦にもたれかけていた頃だった。太陽はポカポカ僕の背中を温めていた。僕は自転車で旅に出ていた。長い長い旅だ。ゆるい下りの道をのんびりとペダルを踏んでいた。ふっと微風が吹いた。金色の彼らが少しざわついた。「いいところだな。」僕はつぶやき、自転車を止めて空を見た。広い。盆地に住んでいたせいかよけい空が広く見える。周りを見まわした。360°障害物なし。僕は再び自転車のペダルを踏んだ。気持ちいい日だ。僕の黄色い自転車がとても楽しそうに走り出した。しばらく走り続けた。その間たくさんの小鳥たちが僕を歓迎してくれた。向こうから子供が二人走ってきている。僕は少しうれしくなって子供らの横を通り過ぎた。
 「あ、家が見えてきた」思わずつぶやいた。僕は最初の家の前で自転車を止めた。「こんにちは」テラスで揺り椅子に座り遠くを見つめていた老人に挨拶をした。白髪の老紳士は僕に気がつき微笑んだ。「このあたりにしばらくいようと思っているんですけど、どこか仕事をくれるところはありませんか」と聞いた。老人は、「今頃だと刈り入れがあるからな、すぐに見つかるだろう」と言って暫く考えてから言った。「どうだね、わしらの畑で働いては。ただし、仕事はきついぞ」老人はまた微笑んだ。「ありがとうございます」僕はそう言うと自転車を止めて老人のそばまで行った。「君は何処から来たんだい」老人が聞いた。僕は黙って微笑んだ。また微風が吹いてきた。老人の日に焼けた顔が金色の小麦と太陽の光の輝きによく似合っている。老人は「人生は長い旅だよ」と言うと後に付いて来るように言って家の中に入っていった。僕は暖かい日を背中に浴びながら老人の後に付いて行った。家の中は外から見るのよりもずっと広く、まるで西部劇の居酒屋のようだった。部屋の中央にある長机の椅子の一つに老人は座った。僕はしばらく入口の所で立ったままだったが、老人の勧めるままにその横の椅子に座った。老人はしばらく僕の目を見つめてから言った。「今夜みんなに君を紹介しなくてはな。私はロブって呼ばれている」「僕はアイム」と答えた。
 「その階段を昇っていちばん奥のところに部屋が空いている。荷物をとってきなさい」と彼。「わかったよロブ」と答えると表へ飛び出した。
 重い荷物を持ってロブに言われた部屋に入っていった。その部屋は東に小さい出窓と南にベランダに通じている大きな窓があった。壁の色は白だがところどころ塗料が剥げている。僕は荷物を置いてベランダに出てみた。窓を開けると、そこは新しい世界が開けているように思えた。小麦畑が広く広がっていたが、小麦畑が途切れたずっと向こうには牧草地が広がっていた。僕が来た方向には森が見え、反対側を見ると幅の広い大きな川がゆっくり流れていた。まるで幻想の世界のように思えた。
 家の近くに視線を戻すと、僕の自転車があった。長い旅を共にしてきた自転車だ。体を乗り出してベランダの下を見るとさっきと同じように老人が揺り椅子に座って遠くの方を見ていた。
 僕は部屋に戻るとベットの上に横になった。そして、そのまま眠りについた。

 

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